認定超音波検査士(循環器領域)の勉強をしていると、肺高血圧や右心負荷は避けて通れないテーマです。肺高血圧というと病態や分類も多く、「どこまで覚えればいいの?」と迷いやすい分野だと思います。
試験対策として、最初から治療や細かな分類まで全部覚える必要はありません。まずは「肺高血圧を疑ったとき、心エコーで何を見るのか」を整理しておきましょう。
この記事では、TRVからの圧推定、右房・右室の拡大、心室中隔の扁平化、IVC、右室機能など、認定超音波検査士(循環器領域)の試験勉強として押さえておきたいポイントに絞って解説します。
肺高血圧は認定超音波検査士試験でどう勉強する?
日本超音波医学会のカリキュラムでは、肺高血圧の超音波像を説明して超音波検査で同定できることや、急性・慢性肺高血圧をきたす疾患と鑑別に役立つ超音波所見を説明できることが到達目標になっています。
試験対策でも、数字だけを暗記するのではなく、心エコー所見から右心系に何が起きているのかを考えられるようにしておきたいところです。
勉強するときは、次の流れを意識してみてください。
- 肺高血圧を疑う心エコー所見に気づく
- TRVから右室-右房間圧較差を求める
- IVCなどから右房圧を推定する
- 右房・右室拡大や心室中隔扁平化を確認する
- TAPSEなどから右室機能を評価する
- 肺高血圧の原因となる疾患を考える
「TRが速い=肺高血圧」と1つの所見だけで覚えるより、この流れをつなげて理解した方が画像問題や計算問題にも対応しやすくなります。
循環器領域全体で何を優先して勉強するか迷っている方は、認定超音波検査士・循環器領域の攻略法も参考にしてください。
まず覚えたい肺高血圧症の定義
現在、肺高血圧症(PH)は、右心カテーテル検査で測定した安静時の平均肺動脈圧(mPAP)が20 mmHgを超える場合と定義されています。ここで大切なのは、心エコーだけで肺高血圧症を確定診断するわけではないということです。
心エコーではTRVや右心系の形態などから肺高血圧症の可能性を評価し、確定診断には右心カテーテル検査が必要です。
以前は「mPAP 25 mmHg以上」が肺高血圧症の基準として使われていました。古い参考書や資料を使って勉強している場合は、25 mmHgという数字と混同しないように注意しましょう。
現在の定義や分類を詳しく確認したい方は、日本循環器学会の「2025年改訂版 肺血栓塞栓症・深部静脈血栓症および肺高血圧症に関するガイドライン」も確認してみてください。
「20 mmHg」は心エコーで測る値ではない
ここは試験勉強で混乱しやすいところです。「mPAP>20 mmHg」という定義を見て、「心エコーで20 mmHgを超えたら肺高血圧」と覚えないようにしましょう。
mPAPは平均肺動脈圧です。一方、心エコーではTRVを使って右室-右房間の収縮期圧較差を求め、さらに右房圧を加えて右室収縮期圧(RVSP)を推定します。
同じ「mmHg」が出てくるので、試験問題では今何の圧を求めているのかを区別することが大切です。
TRから肺動脈圧を推定できるようにする
肺高血圧の試験対策で、まず計算できるようにしておきたいのがTRを利用した圧推定です。TRの最大血流速度(TRV)をVとすると、簡易ベルヌーイ式から右室と右房の収縮期圧較差を求めることができます。
右室-右房間圧較差 = 4 × TRV²
さらに右房圧(RAP)を加えると、右室収縮期圧(RVSP)を推定できます。
RVSP = 4 × TRV² + RAP
右室流出路や肺動脈弁などに狭窄がなければ、RVSPから肺動脈収縮期圧(PASP)を推定できます。
TRVだけで肺高血圧を決めない
TRVは肺高血圧を疑ううえで重要ですが、「この値を超えたら肺高血圧確定」と覚えるのは避けましょう。TRVだけではなく、右室・右房の大きさや心室中隔、肺動脈、IVCなど、ほかの心エコー所見と組み合わせて評価します。
2025年のASEガイドラインでは、安静時のTRV 2.9 m/s以上は、右室流出路狭窄がなければPHを示唆する所見とされています。また、TRV 2.8 m/s以上でも、右室拡大や心室中隔の形態異常、IVC拡大などほかの所見を複数伴う場合にはPHを疑い、さらに評価する考え方が示されています。
試験勉強でも、「TRV 2.8」という数字だけを独立して暗記しないことが大切です。
さらにTRVは測定誤差の影響も受けます。簡易ベルヌーイ式では速度を2乗するため、TRVのわずかな測定誤差が計算結果に影響することも覚えておきましょう。
画像で右心負荷を見抜くポイント
肺動脈圧が高い状態では、右室に圧負荷がかかります。画像問題では「肺高血圧」と書かれていなくても、右心負荷を示す画像から病態を考えなければならないことがあります。
右房・右室の拡大
心尖部四腔像では、右房・右室の大きさにも注目します。右室が拡大していたら、「右室が大きい」で終わらず、なぜ右室が大きくなっているのかまで考える癖をつけておきましょう。
右心系の拡大は肺高血圧だけでなく、先天性心疾患などでもみられます。先天性疾患の試験対策と関連づけて勉強しておくと、画像問題でも原因を考えやすくなります。
心室中隔の扁平化(D-shape)
肺高血圧・右室負荷で覚えておきたい代表的な画像所見が、心室中隔の扁平化です。傍胸骨短軸像では、右室圧が上昇すると心室中隔が左室側へ押され、左室が円形ではなくD字状に見えることがあります。
いわゆるD-shapeです。
試験勉強では「肺高血圧 → 右室圧負荷 → 心室中隔扁平化 → D-shape」と、画像と病態をつなげて覚えておくと分かりやすくなります。
ただし、D-shapeはタイミングにも注目です。右室の圧負荷では収縮期の中隔扁平化、右室の容量負荷では拡張期の中隔扁平化が目立つため、「D-shape=肺高血圧」とだけ丸暗記しないようにしましょう。
IVCから右房圧を推定する
TRVからRVSPを求めるには、右房圧(RAP)の推定が必要です。そこで確認するのが下大静脈(IVC)の径と呼吸性変動です。
試験対策では、まず次の組み合わせを整理しておきましょう。
| IVC径 | 吸気時の虚脱 | 推定RAP |
|---|---|---|
| 2.1 cm以下 | 50%以上 | 3 mmHg |
| 中間的な所見 | どちらか一方のみ当てはまるなど | 8 mmHg |
| 2.1 cmを超える | 50%未満 | 15 mmHg |
まずは3・8・15 mmHgという推定RAPを覚えておくと、TRVからRVSPを求める計算につなげやすくなります。
ただし、実際の評価ではIVCだけを機械的に当てはめて右房圧を決めるわけではありません。所見が一致しない場合などは、ほかの右房圧上昇を示唆する所見も合わせて判断します。
TRVとIVCを組み合わせて計算してみよう
今度はTRVだけでなく、IVCの情報も提示された問題を考えてみます。
- TRV:3.5 m/s
- IVC径:2.3 cm
- 吸気時虚脱:30%
IVC径は2.1 cmを超え、吸気時虚脱は50%未満なので、推定RAPは15 mmHgです。
まずTRVから圧較差を求めます。
4 × 3.5² = 49 mmHg
ここに推定RAPを加えます。
49 + 15 = 64 mmHg
したがって、推定RVSPは64 mmHgです。
TRV、IVC、RAP、RVSPをそれぞれ別の項目として暗記するよりも、このように1つの計算問題としてつなげて練習しておくと理解しやすくなります。
右室機能も確認しよう
肺高血圧では、「肺動脈圧が高いか」だけでなく、右室がその負荷に対してどのような状態になっているかを見ることも重要です。右室収縮機能の評価として、試験勉強ではまずTAPSE、RV S’、RVFACを押さえておきましょう。
| 指標 | 覚えておきたい基準 | 何をみている? |
|---|---|---|
| TAPSE | >1.7 cm | 右室長軸方向の収縮 |
| RV S’ | >9.5 cm/s | 三尖弁輪の収縮期運動速度 |
| RVFAC | >35% | 右室面積の収縮期変化 |
TAPSE
TAPSE(tricuspid annular plane systolic excursion)は、収縮期に三尖弁輪が心尖部方向へどの程度移動するかを測定します。右室の長軸方向の収縮機能を評価する指標です。
RV S’
RV S’は、組織ドプラ法で三尖弁輪の収縮期運動速度を測定します。TAPSEと同じく、右室長軸方向の収縮機能をみる指標です。
RVFAC
RVFAC(right ventricular fractional area change)は、拡張末期と収縮末期の右室面積の変化から右室収縮機能を評価します。
計算式は次のとおりです。
RVFAC=(拡張末期右室面積-収縮末期右室面積)÷拡張末期右室面積×100
数値だけを暗記するよりも、TAPSEは距離、RV S’は速度、RVFACは面積変化と、実際に何を測っているのかまでセットで覚えておくと整理しやすくなります。
試験前に覚えておきたい基準値
ここまで出てきた数値を、試験前に見返せるようにまとめます。
| 項目 | 試験勉強で押さえておきたい値 |
|---|---|
| 肺高血圧症の定義 | mPAP >20 mmHg(右心カテーテル) |
| TRV | 2.8~2.9 m/s付近では他のPH所見も合わせて評価 |
| IVC径 | 2.1 cm |
| 推定RAP | 3・8・15 mmHg |
| TAPSE | >1.7 cm |
| RV S’ | >9.5 cm/s |
| RVFAC | >35% |
この表は「数字だけで肺高血圧を診断するための表」ではありません。基準値と一緒に、どこを測っているのか、その数値から何を評価しているのかまで説明できるようにしておきましょう。
肺高血圧を見たら原因疾患まで考える
肺高血圧症は、1つの疾患だけで起こるものではありません。原因によって大きく分類されるため、心エコーでは肺高血圧を疑ったところで終わらず、その背景にある疾患も考えます。
試験勉強では、まず次のような疾患・病態との関連を意識しておきましょう。
- 肺動脈性肺高血圧症(PAH)
- 左心疾患・弁膜症に伴う肺高血圧
- 肺疾患・低酸素血症に伴う肺高血圧
- 慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)
- 先天性心疾患に伴う肺高血圧
心エコーでは弁膜症や左室機能、シャント性心疾患など、原因になり得る心疾患がないか確認します。超音波検査士・循環器の弁膜症対策も一緒に確認しておくと、疾患同士をつなげて勉強できます。
試験前にここだけは確認|肺高血圧・右心負荷まとめ
肺高血圧・右心負荷は、数字だけを暗記しようとすると分かりにくくなりやすい分野です。試験前には、次の流れを自分で説明できるか確認してみてください。
- 肺高血圧を疑う
- TRVを評価する
- 4V²で右室-右房間圧較差を求める
- IVCなどからRAPを推定する
- RVSPを求める
- 右房・右室拡大やD-shapeなどを確認する
- TAPSE・RV S’・RVFACなどで右室機能を評価する
- 原因となる疾患を考える
TR波形、IVC、右室拡大、D-shapeなどを実際の心エコー画像と結びつけながら、「なぜこの所見が出るのか」を考えていくと整理しやすくなります。
認定超音波検査士(循環器領域)の試験勉強では、まずこの一連の流れを理解してから、問題集や症例画像を使って確認していきましょう。


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